BIXXISのニューモデルEPOPEAを専売モデルとして取り扱うことになった東京・上野の「横尾双輪館」を、ジャーナリストの大前仁(オオマエジムショ)氏が取材。 店主の横尾明さん、ご子息の亘さんの話を伺った。

店内に飾られた、70年代にはじめて日本に持ち込んだデローザを前に横尾明氏

・1972年、デローザ

「長澤義明さん(現長沢レーシングサイクル)がポリアギからデローザに移って、それを1972年に山王スポーツの高橋長敏さんと杉野鉄工所の杉野安さんが、たぶん長澤さんを激励に行ったんじゃないかな? そのときに何台かデローザを頼んできたんだよね。

ーおう、いいのがあるぞー と高橋さんから電話が掛かってきて、1台もらうことにした。それがこれなんですよ-

 横尾双輪館の横尾明さん(86歳)はそういってカウンターの上に飾った古いロードバイクを指さした。カンパニョーロ・レコードのコンポーネントで組まれたその青いロードは、50年近く経った今もまだその輝きを失っていなかった。

「1964年の東京オリンピックのときに、いろんな自転車が日本に来た。チネリがすごかったけれど、チネリと比べてもデローザは違ったんだ。チネリは綺麗で、デローザはレースの現場という感じがあった。綺麗さはないけれど(笑)、戦う道具としてデローザの方がすごいな、という気がした」

 当時の完成車は、横尾さんの記憶によれば36万円くらいだったという。ちなみに当時と比べると消費者物価指数は3倍以上になっている。

「自分じゃ買えない高価な自転車だった。でも、本物の良さがわかったし、本物を見た感動があった。年に2、3回、イタリアから完成車で輸入するようになった」。

・2001年、ホルクス

 横尾双輪館の横尾亘(わたる)さん(46歳)は、サラリーマンを辞めてお店に入った頃のことをこう話す。

「デローザマークというのは小さい頃から見ていたけれど、それが何なのかはよく知らなかったんです。でも、パッと見たときに格好いいなとは思っていました。私がお店に入った2001年頃には、ビアンキもコルナゴもジャイアントも扱っていたのですが、知識はないけれどパッと見たときのデローザの格好良さはわかりました。コルナゴは派手で、あれがいいという人もいるけれど、僕はデローザの飾り気のない、シンプルな格好良さが気に入っていました」

 亘さんが最初に乗ったロードバイクはお店のオリジナルブランドであるホルクス。もちろんメイドインジャパンのクロモリフレームだ。しかし、次に乗ったクロモリのデローザで驚くことになる。「同じクロモリなのに、何か判らないけれど『走る!』」。それが亘さんのデローザ第一印象だ。

EPOPEAを手に横尾亘さん。 同店ではこのモデルのためにBIXXISロゴ入りステムも用意する

・2019年、BIXXIS

 ウーゴ・デローザ(86歳)の次男、ドリアーノ・デローザ(58歳)が、1973年から手伝っていたデローザの工房から独立し、娘のマルティーナとともにビクシズというブランドをスタートさせたのが2015年。そして2019年、ハンドメイドバイシクル展のために来日したドリアーノは、もちろん横尾双輪館を訪れた。

「ドリアーノは職人っぽいという印象がありました。マジメそうで、商売のことよりもいい製品を作るというほうに重きを置いているような感じ。ビクシズを大きくしようとか、何百台売ろうとか、そういう風には見えなかったですね」と亘さん。

 明さんは「彼が親父さんの血を一番引いているね、作るほうの。職人の血を引いているんじゃないかなと思う。(EPOPEAを見ながら)こういうのができてくるのを見ると、仕上げとか、丁寧に作ってあるね」と話す。

2019年2月に来日したドリアーノとマルティーナはさっそくEPOPEAのプロトタイプとなるフレームをもって横尾双輪館を訪問した

 明さんによれば、ロードバイクのスケルトンは「ある時代までのものが本当はいい」という。今のものはレーシングっぽくなり過ぎているのだそうだ。

「今のレーサーってさ、ツールに出るような選手が基準になっているでしょう? もう身体ができちゃっている人が基準になっている。そういう人が乗る自転車に初心者が乗っても、本当は身体に優しくない。 本当のことを言うと、クロモリでチェーンステイがちょっと長い方が、身体に優しいはずなんだよね」

 これを受けて実はBIXXISでも、スタンダードのジオメトリを「パフォーマンス」と名付け、さらにチェーンステイ寸法を少し伸ばした「コンフォート」というジオメトリをラインナップに加ることを予定しているそうだ。

「デローザに比べるわけじゃないけれど、BIXXISはスケルトンにウチの希望を聞いてくれる」

 「自転車の素朴なイメージを現在でも残しているのはデローザだけ。コルナゴとかチネリとかビアンキとかは、もう作る人がみんな変わっちゃっているでしょう? デローザはずっと連なっているでしょう? ビクシズに、その魂が入っている気がする」と明さんはBIXXISを評する。

 亘さんは「僕は(デローザとBIXXISを)違うブランドとは思っていないんです。 名前こそ違うけれど、デローザの魂みたいなものが入っているものとして。 だから、ウチでデローザとビクシズの両方を扱えるのは意義がある。イタリアはともかく、日本では2つ並んで販売できるというのはとても嬉しいことです」と話してくれた。

文:大前 仁

老舗ショップの歴史を培ってきた明さん。同店もBIXXIS EPOPEAのように、子息の亘さんへと物語が継承されてゆく
EPOPEAの発売にあたり、横尾双輪館がデッドストックしていたCampagnoloロードエンド部品の供給を受けた。そのため数量限定でカンパ製ロードエンド仕様のオプションが実現した